若菜 その二四二
どうなったか、どうしたかとそれからは毎日責められるのに困り切って、小侍従はよい折をやっと見つけ出して手紙で知らせてきた。柏木はひどく喜んであまり目立たないように姿をやつして、人目を忍んでこっそりと出かけた。本当のところ、我ながらこんなことはいかに不届きなけしからぬことかと重々わかっているので、女三の宮の側に近づけばかえって思いつめた感情が高ぶり、惑乱してしまうなどとは思いもよらない。ただほんのちらりと着物の端だけでも垣間見た、あの春の夕暮が忘れられなくて、物足らずにいつまでも思い出される女三の宮の姿を少しだけ側近くで拝見して、物の思いを言ったなら、せめて一行くらいの返事はもらえるだろうか、可哀そうにとでも思ってくれるだろうか、などと考える。
四月の十日過ぎのことだった。賀茂の祭りの禊を明日に控えて、斎院の手伝いをする女房十二人、あまり身分の高くない若い女房や女童などがめいめいそれぞれの晴れ着を縫ったり化粧したりしながら見物に出かけようとしたくにあれこれ余念がなく、忙しそうにしているのだった。
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