若菜 その二三五

「大きくおなりになるのを拝見できないことでしょうね。きっと私のことはお忘れになりますわね」



 と言うのを聞き、明石の女御は涙をせき止められず、悲しむ。光源氏は、



「縁起でもない。そんなことをお考えになってはなりません。たとえ病気が重くてもまさか死ぬようなことがあるものですか。木の持ち方次第で人はどうにもなるものです。心の広い器量の大きい人には幸せもそれに応じで大きく、狭い心の人間は何かの拍子に出世してもゆったりと余裕のある所が乏しく、短気な人は長くその地位にとどまりがたいものです。心が穏やかでおっとりした人は長生きする例が多いのです」



 など言い、仏や神にも紫の上の性質がこの上なく立派で、前世の罪障の軽いことを願文の中に詳しく言うのだった。

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