若菜 その二一七
明石の女御は筝のお琴を紫の上に譲って物に寄り掛かって横になったので、和琴を光源氏の前に差し出し、今までより打ち解けた遊びになった。
催馬楽の「葛城」を合奏するのが華やかで楽しく盛り上がる。光源氏が繰り返し、
「おおしとど、としとんど、おおしとんど、としとんど」
と謡う声はたとえようもなく魅力的ですばらしいものだった。
月が次第に空高くさし上るにつれて、花の色香もひときわひきたてられていかにも奥ゆかしい春の夜なのだった。
筝のお琴を弾く明石の女御の爪音はとても可憐でやさしく、明石の君の手筋も加わって絃を押さえて揺する由の音色が深く、とても澄んで聞こえたが、交替した紫の上の手づかいはまた趣が変わってゆるやかで味わいがあり、聞く人々は感に堪えずきもそぞろになるほど華やかな魅力がある。静かな弾き方と早い弾き方をまぜた輪の手などもすべていかにも一段と才気あふれた音色なのだった。
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