若菜 その二一二

 夕霧は、



「それを申し上げたかったのですが、ものをよくもわきまえない私などが口はばったいことを言ってはとさしひかえました。遠い昔のことを聞き比べようがないせいか、柏木の和琴や蛍兵部卿の宮の琵琶などを特に世間では近頃めったにない上手とほめちぎるのでしょう。確かに二人とも比べるもののない妙手ですが、今宵うかがいましたこちらの人々の演奏はどなたもみな素晴らしくて、実に驚き入りました。表立った催しではなく、ほんのお遊びの会だと前から思って油断していましたので、不意をつかれてびっくりしたからでしょう。とても唱歌などはつとめにくくてなりませんでした。和琴は前の太政大臣お一人だけがこうした折にも臨機応変にその場にふさわしい音色を出して自由自在にお弾きになるのは、本当に最高にお上手でいらっしゃいます。しかしそれは例外でして、一般にはなかなかとびぬけて上手には弾けない楽器ですのに、紫の上はよくもあれだけ見事に演奏なさいました」



 と褒めるのだった。

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