若菜 その二一一

 光源氏は、



「いや、その春秋の優劣のことよ。昔から人々が決めかねた問題なので、末世の我々などがとてもはっきり結論など出せないだろう。ただ音楽の調子や曲については秋の律の曲を春の呂の曲の下のものとしているのは確かにあなたの説のような理由によるだろう」



 などと言う。



「どうだろうね。この頃名人としての評判の誰彼が帝の御前などで度々演奏させられることがあるだろうが、本当の名人というのは数少なくなったようだ。自分はその連中より優れていると自任している名人たちでも実はたいして会得してもいないのではないだろうか。今夜のこんな頼りない女君たちばかりの中にまじって弾いても格別際立って優れていようとも思えない。長年こうして引きこもっているので、耳なども少し怪しくなっているのかもしれない。情けないことよ。どういうわけか、この六条の院は学問にしろちょっとした芸事にしろ、妙に習い栄えがして、よそより立派に見えてくるところなのだよ。帝の御前での晴れの管弦の遊びなどええ第一級の名手として選ばれた人たちとここの女君たちと比べてどうだろう」



 と言うのだった。

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