若菜 その一八九
紫の上はこうして歳月が経つにつれて、何かにつけてほかの人々の威信が増大していく中に、
「自分はただ光源氏様お一人の寵愛だけにすがって今まで人に引けをとることはなく来たものの、あまり年をとりすぎてしまったら寵愛もしまいには衰えていくだろう。そんなみじめな目にあわない前に、いっそ自分から出家してしまいたいもの」
と前々から思い続けているが、そんなことを口に出してはこざかしいように光源氏が思うかと遠慮して、そうはっきりとも願わない。
帝まで女三の宮について特別に遠慮しているのに、女三の宮を粗略に扱っているような噂が帝の耳に入っては申し訳ないと光源氏も思い、女三の宮へ通う夜がこの頃次第に紫の上と過ごす夜と等分になっていく。それも当然の成り行きで、無理もないこととは思いながらも、紫の上はやはり思っていた通りだと心にひどくこたえている。それでもうわべはそ知らぬふりを装って、これまでと同じようにさり気なく過ごしているのだった。
東宮のすぐ下の妹の女一の宮を紫の上は自分のところに引き取って、大切に養育することにした。その世話にかまけることで、光源氏の夜離れになるわびしい夜々も気を紛らわしている。紫の上はこの東宮の兄弟の明石の女御の子供を、どの宮も可愛らしくいとしいと思うのだった。
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