若菜 その一八五
紫の上はいつも邸のうちで四季折々に催される風雅な音楽の遊びを朝夕聞き馴れて見馴れていたが、邸の外での見物はせず、ましてこうした都の外への旅行はまだ初めての経験なので、すべてのことが珍しく、面白く感じられるのだった。
住の江の松に夜ぶかく置く霜は
神のかけたる木綿鬘かも
という紫の上の歌は小野篁が比良の山の雪を木綿鬘にたとえて<比良の山さえ木綿鬘せり>と詠んだ雪の朝の景色を想像になると、この祭りを住吉の神が嘉納した証の霜かと思われて、ますます頼もしく思う。明石の女御は、
神人の手にとりもたる榊葉に
木綿かけそふるふかき夜の霜
と詠んだ。紫の上の女房の中務の君も、
祝子が木綿うちまがひ置く霜は
げにいちじるき神のしるしか
と詠み、つづいて次々数知れず詠まれたが、何もいちいち覚えておくこともないだろう。こうした場合の歌はいつもは得意らしく詠む殿方も、案外出来栄えがぱっとしないで、「松の千歳」といった決まり文句よりほかの新しい趣向もないので、書き記しのも面倒である。
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