若菜 その一七一

 蛍兵部の宮は今も独身を通している。執心した縁談はどれもみなまとまらず、女との関係も面白くなく、世間の笑いものになっているように感じられて、こんなふうに暢気に構えてばかりもいられないと式部卿の宮家に伺って、真木柱の姫君に惹かれているような素振りを見せた。祖父君の式部卿の宮はそれを聞いて、



「それはけっこうなことだ。大切にしている娘を入内させるのでなければ、その次なら親王たちにこそさし上げたいものです。臣下の真面目一方で平凡な連中ばかりを当節の人が大事にしているのは品のない考えです」



 と言って、それほどたいして蛍兵部の宮を焦らしもせず、この求婚を承諾した。蛍兵部の宮はあまりにもすんなり事が運んで、恋の恨みを言う暇もないのを、かえってあっけなく思った。それでも何といっても権勢の強い気の張る宮家相手なので、今更言い逃れもできず、真木柱の姫君に通うようになるのだった。

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