若菜 その一五二

 光源氏がこちらを見て、



「上達部の席が階段では端近すぎて軽々しい。どうぞこちらへ」



 と言って、東の対の南面に入ったので、皆そちらへ行く。蛍兵部卿の宮も席を改めて話が弾む。それ以下の殿上人は簀子に円座を敷いて座り、さりげないふうに椿餅、梨、蜜柑のようないろいろなものをさまざまな箱の蓋に盛り合わせてあるのを、若い人たちははしゃぎながらとっていく。適当な干物くらいを肴にしてお酒を飲む。


 柏木はすっかり沈み込んで、ともすれば庭の桜の木に目をあてて心も空にぼんやりしている。夕霧は事情を察して妖しかったあの一瞬に目をよぎった御簾の中の人影の幻のようだったのを思い浮かべているのだろうかと想像するのだった。

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