若菜 その一五一

 夕霧もそれに気づいてとてもはらはらするが、御簾を直しにそっと近づくのもかえってはしたないように思われるので、女房たちに気づかせようとして、ただ咳ばらいをすると、女三の宮はそっと奥に入った。実は夕霧自身の心にもそれがひどく心残りに思われるのだが、猫の綱が解かれて御簾がさがったので、思わずため息をつく。


 ましてあれほど心を奪われている柏木は胸がいっぱいになってあれは女三の宮の誰でもない、大勢のなかでもはっきりそれとわかる袿姿からしても、他の女房たちとは紛れようはずもなかったその人の容姿が心に焼き付いてしまったのだった。柏木は何気ないふうを装っていたが、どうしてあの姿を見逃したわけがあるだろうと夕霧は女三の宮のために困ったことになったと思う。


 柏木は切ない気持ちの慰めに小猫を招き寄せて抱き上げると、とても芳しい移り香がしていて、可愛い声で鳴くのにもこれが女三の宮ならと、恋しい人に小猫を思いなぞらえているのもなんとも好色めいたことだろう。

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