若菜 その一三六

「明石の入道のことを変な偏屈ものでむやみに大それた高い望みを持っている人物と世間の人も非難し、また自分としてもかしそめにしろ軽率な振舞いをしたものだと思ったのに、この姫君が生まれたのでその時前世からの深い契りがあってこそとようやく思い知ったのだ。目の当たりに見えない遠い将来のことは五里霧中の思いでずっときたものだけれど、さてはこうして夢を頼りにして無理やり私を婿にと望んだのだろう。私が無実の罪でひどい目にあい、田舎にさすらって行ったのもこの姫君一人がお生まれになるためだったのだ。明石の入道はいったいどんな願を心中にたてていたのだろう」



 と知りたくなって心の中で拝みながら願文を受け取るのだった。そして明石の女御には、



「これにはほかにも一緒に添えてさしあげるものがあります。そのうちまたお話申し上げましょう」



 というのだった。

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