若菜 その一三五

 光源氏は明石の入道の手紙を取り上げて、



「この字を見るととてもしっかりしておられる。まだ老い呆けてなどもいないようだ。筆跡やその他のすべての技量もとりわけ達人と言ってもよい人だったが、ただ処世術の心だけはうまいとは言えなかったね。あの人の先祖の大臣はとても賢明で滅多にないほど忠誠を尽くして朝廷に仕えておられたのに、ちょっとした行き違いがあってその報いでこんなふうに子孫が滅びたのだなどと世間では言っていたようだが、娘の筋ではあっても、あなたがこうしている以上まったく子孫が絶えたとは言えない。それも明石の入道の長年の勤行の功徳によるものだろう」



 など、度々涙をおし拭いながらこの手紙の夢物語の書いたあたりに目をとどめているのだった。

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