若菜 その一三四
明石の君が、
「今ではあの住んでおりました家も捨てて鳥の声も聞こえない山奥に籠っているそうでございます」
と言うと、
「ではこれはその遺言なのだね。手紙はやり取りなさっているのか。尼君はどんなお気持ちでいられることやら。親子の仲よりも夫婦の仲というものはまた格別のものだから」
と言って涙ぐんでいる。
「年をとって世の中のことが何かとわかってくるにつれてなぜか妙に恋しくて思い出されてならなかった人柄だが、深い夫婦の契りを交わした仲の尼君はどんなに感慨深いことだろう」
などと言うので、明石の君はあの夢物語を話したら光源氏は何か思い当ることもあるのではないだろうかと思い、
「何とも不思議な梵字とやらいう字のような筆跡のようではございますが、あるいはお目にとめていただけるようなこともあろうかと存じまして、お目にかけるのでございます。私どもが都に参ります時にこれが最後と別れましたが、やはりまだ未練は残っているのでございました」
と言って、風情よく泣くのだった。
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