若菜 その一〇三

 琵琶は例の蛍兵部卿の宮で、この宮は何につけても世にたぐいまれな名手であり、誰も敵うものがいない。光源氏の前には琴が置かれ、太政大臣は和して琴を弾く。光源氏は長年にわたり太政大臣が稽古の苦労を積んだのだと思って聞くせいか、またとなく優美な音色に聞こえ、しみじみと感慨深く感じた。自身も琴の秘術を少しも惜しまず披露して言いようもなくすばらしい音色を奏でた。


 二人の間では昔の思い出話なども出てきて、今はまたこうして親密な間柄なので、どちらの縁から言っても睦まじく付き合おうなどと楽しく談笑する。盃を何度も重ね、その場の興の尽きることもなく、二人とも酔いのあまり感涙を抑えかねている。


 光源氏から太政大臣への贈り物として名器の和琴一張りに愛用の高麗笛を添えて、さらに紫檀の箱一対に数々の唐の漢字の手本や我が国の草書の手本などを入れて、帰りの車まで用意した。帝よりもらった馬を迎え、右馬寮の役人たちが高麗楽を演奏して賑やかなことだった。六衛府の役人たちへの数々の禄は夕霧が与えたのだった。

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