若菜 その九十八

 十二月の二十日すぎには秋好む中宮が六条の院に退出して、今年の御賀の最後の祈願としてならの都の七大寺に誦経のお布施として布四千反、この京都近辺の四十寺に絹四百疋をそれぞれ分けて寄進した。またとない養育の恩はかねがね身にしみて感じていたので、どんな機会にかこつけてこの深い感謝の気持ちを表して、お目にかけることができるだろうと考えている。そこで亡き父宮や母の御息所が生きていた頃なら、きっと今度の御賀のためにこうもしただろうという恩返しの気持ちを加えてと、秋好む中宮は計画したのだった。光源氏が帝の思いを考えて、このようにたって辞退したので、秋好む中宮もいろいろ計画を大方あきらめた。



「四十の賀というものは、いろいろの先例を見ても、どうもその後、長く命を保った者は少ないようですから、この度は世間の騒ぎになるようなことはやはりお取りやめくださって、本当にこの後、五十まで長生きできるよう祝ってください」



 と光源氏は言ったが、やはり中宮主催となれば、公式の賀宴となってとても格式高い盛大なものになるのだった。

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