若菜 その九十五

 午後二時頃、楽人が来た。舞楽の万歳楽、皇麞などを舞って、日が暮れかかる頃に高麗楽の始まりをつげる乱声が奏され、落蹲を舞い出した。やはり滅多に見られない舞なので、舞い終わりかけた頃、夕霧と柏木が庭に下り立ち、引っ込みの舞の入綾をほんの少しばかり舞って紅葉の蔭に消えていったのが名残惜しくて、人々は感動して見飽きないのだった。


 昔、朱雀院に亡き桐壺院が行幸の折、当時の光源氏と頭の中将が舞ったあの青海波の世にもすばらしかった夕暮のことを思い出した人々は、夕霧と柏木の二人が父君に負けずにそれぞれ立派に跡を継いで親子二人に渡り世間から称賛されていることや、器量や態度なども決して当時の父君たちにひけをとらず、官位などはむしろ優っていることなどを親子の世代の年齢まで数えながら比較している。やはり前世からの因縁でこのように代々立派な人々が肩を並べるという両家の間柄だったのだと感嘆してしまうのだった。

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