若菜 その九十六

 主人の光源氏も感慨深くて涙ぐみ、思い出すことがたくさんあった。


 夜になって楽人たちが退出する。紫の上づきの別当たちが下役たちを引き連れてきて、禄の入った唐櫃の側に寄って、中から一つずつ禄を取り出して次々に与える。もらった白い衣装などを肩にかけて、築山の脇から池の堤を通り過ぎる光景を遠目に見ると、千年の寿命を持って遊び合うあの催馬楽の鶴の白い毛衣にも見違えそうだ。

 音楽の遊びが始まってまたいっそう感興の深い夜になった。楽器類は主に東宮の方で用意してもらった。


 朱雀院から譲ってもらった琵琶、琴、帝よりもらった筝の琴など、皆昔が思い出される音色で光源氏は久しぶりに合奏すると、過ぎ去った昔のあの折この折、亡き桐壺院の有り様や、宮中での出来事などを自然と思い出すのだった。

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