若菜 その八十三

 紫の上は軽く笑って、



「すっかり若返られたご様子ですこと。今更昔の恋のよりを戻されて浮き浮きなさるなんて。頼る当てもない私なんかは辛くてもうどうなることやら」



 と言い、さすがに涙ぐんでいる目元がとても愛しく思う。



「こんなに機嫌を悪くされてはたまらない。お願いだから、思うまま私をつねるなりなんなりして懲らしめてください。そんな水臭い態度をとるようには、これまで躾けてこなかったつもりですよ。思いがけない難しい気性になってしまわれたものだ」



 と言い、あれこれと機嫌を取っていうちに何もかも昨夜のことをすっかり白状してしまったようだ。


 女三の宮の方へもすぐに行けなくて、紫の上の機嫌ばかり取っている。女三の宮は光源氏がいなくても一向に気にしないのに、世話役の乳母たちが不平がましく取り沙汰している。女三の宮自身が気難しく咎めるような態度なら紫の上にもましていっそう気遣いが必要なのだが、こちらはただおっとりとして可愛らしい遊び相手のように光源氏は思っているのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る