若菜 その八十二

 あの昔も誰よりこの上なく執心で恋焦がれていた気持ちだったのに、引き裂かれてほんの短い間に途絶えてしまった仲だったので、どうして恋の思いの浅いはずがあろうか。


 ひどく人目を忍んで六条の院に帰ってきて、こっそり部屋に入った寝乱れた光源氏の姿を見て、待ち受けていた紫式部はやっぱりそんなことだったのかと察したが、気づかないふりをしていた。


 それがかえって焼餅を焼いてみせられるよりも辛くて、どうしてこうも見放されてしまったのかと光源氏は心配になって、これまでよりもいっそう深い愛情を来世までもと言葉を尽くして誓うのだった。


 朧月夜との昨夜の密会も決して誰にも漏らしてはならないのだが、紫の上は昔の二人の事件も知っているので、まさかありのままには言えないのだが、



「物越しにほんの僅かの間のお話だったので、物足りない気持ちがする。何とかして、人に見咎められないようにもう一度だけでも、ひそかに逢いたいものだ」



 と、打ち明け話すのだった。

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