若菜 その七十六

「やはりこうだ。靡きやすさは昔のままだから」



 と光源氏は逢いたいと思う一方で考えている。互いに並々ではない間柄だったので、かすかな身じろぎをしても気配でそれとわかり、恋しさも格別だ。


 そこは東の対だった。東南の廂の間に座を設け、襖の端はしっかりと留めてあるので、光源氏は、



「まるで若者扱いのなさり方ですね。あれ以来のお逢いできなくなった歳月の数も、はっきりと覚えているほど、あなたをお慕いし続けてきた私なのに、こんな水臭いお扱いを受けるのはひどく辛くてなりません」



 と恨むのだった。

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