若菜 その七十七

 夜は更けていく。行けの玉藻に遊ぶ鴛鴦の声々などが哀切に聞こえて、しめやかで人影の少ない二条の宮邸の有り様を見ても、昔の盛時と比べ、こうも移り変わる世の中よと思い続ける。女に空泣きしてみせた平中の真似ではないが、本当に涙もろくなってしまうのだった。昔の若かった頃とは違い、万事に落ち着いて余裕ありげに話すものの、この隔ての襖をこのままにしておこうかと、引き動かしている。




 年月をなかに隔てて逢坂の

 さもせきがたく落つる涙か




 と光源氏が詠みかけると、朧月夜は、




 涙のみせきとめだたき清水にて

 ゆきあふ道ははやく絶えにき




 ときっぱりとつれなく言うのだった。

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