若菜 その六十九

 朱雀院はこの二月中に西山の寺に入った。その折光源氏に胸を打つしみじみとした便りを度々送る。


 女三の宮のことについては言うまでもない。



「私が聞けばどう思うだろうなど遠慮なさるには及びません。どのようにでも、あなたのお心のままに女三の宮をお扱いくださるように」



 と、幾度となく便りを送るのだった。そうは言っても、やはり女三の宮が幼稚でいるのが不憫で、気掛かりでならず、心配しているのだった。


 紫の上にも朱雀院から特別に便りが届けられた。



「幼い人が何のわきまえもない有様で、なにとぞ罪もない者と大目に見て許してやってお世話くださるようにお願いします。あなたとは従姉妹同士、まんざら縁故のない仲でもないのですから。




 背きにしこの世に残る心こそ

 入る山路のほだしなりけれ




 子ゆえの心の闇を晴らさせないで、こんなお手紙をさし上げるのも愚かしいことですが」



 とあるのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る