若菜 その七十

 光源氏も見て、



「おいたわしいお手紙だ。謹んでお引き受けするとお返事さし上げなさい」



 と言い、使者にも女房から盃を差し出されて何杯もすすめさせられた。


 紫の上は返事をどう書いたものかと書きづらく思ったが、大げさに趣向を凝らすような場合ではないので、素直に思ったままを書いた。




 背く世のうしろめたくはさりがたき

 ほだしをしひてかけな離れそ




 などというふうに書いたようだった。


 女の衣装に細長を添えた祝儀の品々を使いの肩にかけてやった。


 紫の上の返事の筆跡がとても立派なのを、朱雀院は見て、何事もこうして気後れするほど優れている紫の上のそばで女三の宮はますます幼稚に見えることだろうと、ひとしお辛く思うのだった。

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