若菜 その六十八

「朱雀院は男らしくしかつめらしい学問のほうは不得手でいらっしゃると、世間では思っているようだが、趣味的な芸術方面では人に優れていらっしゃるのに、女三の宮をどうしてこうおっとりお育てになったのだろう。それでもずいぶんお心にかけた秘蔵っ子の内親王とお伺いしていたのに」



 と残念に思うが、それもまた可愛いとも思う。


 女三の宮は何でも光源氏の言葉通りに抵抗もなくただ素直に従って、返事などもふと心に浮かんだままを、あどけなくすっかり口にだしているので、とても見放すことなどできないようだ。



「昔の若さに任せた自分だったら、こんな女三の宮では嫌気がさしてがっかりしただろうけど、どちらにしても図抜けて優れているような人は滅多いないものだ。どの女もそれぞれに長所も短所もあって、はたから見れば女三の宮だって非常に理想的な人に見えるのだろう」



 と思う。それにつけてもいつもふたり離れず暮らしになってきたこれまでの長い歳月にも増して、紫の上が世にもたぐいなく完璧な人柄に思い、我ながらよくもこうまで理想的な女に育て上げたものよと考えるのだった。


 わずか一夜別れていても、よそで明かした朝の間でさえ、紫の上が気づかわしく恋しくて、愛憐の情がますます激しくつのるのを、どうしてこんなに恋しいのだろうかと不吉な予感さえするのだった。

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