若菜 その二十三

 蛍兵部卿の宮は髭黒の左大将の北の方となった玉鬘の君をもらい損ねたので、玉鬘の君にもし聞かれたらという配慮もあって、いい加減な相手とは結婚できないと選り好みしていたので、女三の宮との縁談にどうして心が動かないことがあろうか。この上もなくことのなり行きに気を揉んでいる。


 藤大納言の朝臣は年来、朱雀院の別当をしていつも女三の宮の側に親しく仕えていたので、朱雀院がやがて山寺へ籠った後は、自分も頼りどころもなくなり、心細くなるだろうから、この女三の宮の後見役にかこつけて、これからも御愛顧いただいて、あわよくば女三の宮の婿にしてもらえるよう、朱雀院の意向を懸命に伺っている様子だ。


 夕霧の権中納言も、こうした噂の数々を聞くにつけて、自分は人伝ではなく朱雀院から直接、あれほどこちらの気持ちをそそるように言った態度を拝見したので、たまたま何かの折に、自分の願望を朱雀院の耳にそっと伝えることができれば、よもやまったく問題にされないことはないだろうと、期待に心をときめかしたこともおそらくあったに違いない。

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