藤裏葉 その二十九

 光源氏はよく気の付く人と思い、



「紫の上がこう言っている」



 と明石の君にも話したので、明石の君はとてもうれしくて、願いが何もかも叶ってしまった気持ちがして、女房の衣装やその他万端のことも高貴な紫の上の有様に劣ることのないように支度する。


 祖母の明石の尼君もやはりこの明石の姫君の行く末を見届けたいという気持ちが深かった。


 明石の姫君にもう一度逢うことのできる時節もあるだろうかと命まで執念深く永らえて祈っていたので、入内後はどうしたらお目に架かれることやらと心配するのも悲しいことだった。


 入内のその夜は紫の上が付き添って参内するので、生母の明石の君は、



「御輦車の後から歩いてお供して行ったりするのは、ずいぶんはた目に見苦しいことだろう。自分はそんなことは平気だけれど、ただこうして立派にお育てくださった玉のような明石の姫君の瑕になりはしないだろうか」



 と思って自分のような者がこうして永らえていることを、かえって辛くさえ思うのだった。

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