藤裏葉 その十八

 その寝乱れた朝の夕霧の顔はなかなか見甲斐のあるものだった。


 後朝の手紙はやはりこれまでのように人目を忍んだふうに心遣いをして届けられた。雲居の雁の方では昨夜の今朝でかえって返事が書けないでためらっているのを、口さがない女房たちが見て互いに突っつきあっているところに、内大臣が来てその手紙を見たのはなんとも困ったことだった。



「いつまでも打ち解けてくださらなかった様子に、ますます自分のふがいなさが思い知らされました。たまらないこの辛さに、またもや私の命が消えてしまいそうです。それにつけても」




 とがむなよ忍びにしぼる手もたゆみ

 今日あらはるる袖のしづくを




 などといかにも物馴れた顔の書きぶりだった。

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