藤裏葉 その十七

 雲居の雁はとても聞きづらく思い、




 浅き名を言ひ流しける河口は

 いかがもらしし関の荒垣




「情けのうございます」



 と言う様子が、とても無邪気で可愛らしく見える。夕霧はかすかに笑って、




 もりにける岫田の関を河口の

 浅きにのみはおほせざらなむ




「積年の辛い思いもとても切なくて、苦しいものですから、今は何の分別もつきません」



 と酔いにかこつけていかにも苦しそうにして、夜の明けるのも気づかない顔をしている。


 女房たちが起こすこともできず当惑していると、内大臣は、



「いい気になって朝寝をしているものだ」



 と文句を言う。それでも夜が明けきらないうちには帰るのだった。

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