藤裏葉 その十四

 七日の夕月の光もほのかに池の面は鏡のように長閑に澄み渡っている。いかにもいまはまだ木々の梢もようやく芽吹いたばかりのものさびしい頃なのに、いかめしく枝を横に張り出した松の木のあまり高くもない枝にかかった藤の花の姿は並々でない美しい風情だ。


 例によって弁の少将がうっとりするほどやさしい美声で催馬楽の「葦垣」を謡う。内大臣は、



「ずいぶん変な歌を謡うものだね」



 とからかって、自分は、



「年経にけるこの家の」



 と「葦垣」の一節の替え歌を謡い、弁の少将に合わせた。その声がとても結構だった。


 興を損じない程度に、はめを外した宴会で夕霧の心の憂さもすっかり消えてしまったようだ。次第に夜も更けるにつれて夕霧はひどく酔ったふりをして、



「気分が悪くなってとても我慢できません。お暇するにも道中危なっかしくなってしまいました。あなたの御寝所を貸していただけませんか」



 と柏木の中将にお願いするのだった。

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