藤裏葉 その十三

 潮時を見計らって賑やかにはやし立てて、内大臣は、



<春日さす藤の裏葉のうらとけて>



 と古歌を口ずさむ。あなたが心を開いてくださるなら、娘をあなたにお任せするのにという内大臣の意中を察して、柏木の中将が藤の花の色が濃く、特に房の長いのを祈りとって、客の夕霧の盃に添える。夕霧がそれを受け取ってどうしたらいいのか困っていると、内大臣が、




 紫にかごとはかけむ藤の花

 まつより過ぎてうれたけれども




 と詠む。夕霧が盃を持ったままほんの形ばかりの拝舞をする姿はとても風情がある。




 いくかへり露けき春を過ぐし来て

 花のひもとくをりにあふらむ




 と詠みながら柏木の中将に盃を廻すと、柏木は、




 たをやめの袖にまがへる藤の花

 見る人からや色もまさらむ




 と返す。次々に盃が廻るにつれて歌が詠まれたようだが、酔ったまぎれの歌でたいしたものはなく、これより優れたものはなかった。

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