藤裏葉 その十一

 内大臣は、



「春の花はどれも皆、咲き匂う頃の色は美しくて驚かされるものばかりですが、気短に我々を見捨ててさっさと散ってしまうのが恨めしいものです。しかしこの藤の花だけは、そのころにひとり遅れて初夏まで咲き続けるのが、妙に奥ゆかしくて愛しく思われます。色もまた紫なので深い縁のしるしと考えられますよ」



 と言い、含みのある笑みを浮かべている様子は、風格があって顔も艶やかに綺麗だ。


 月は昇ったが、花の色はまだはっきりと見えないくらいのほの暗さだ。それでももう花見にことよせて酒宴が始まり、合奏なども行った。


 内大臣は間もなく酔ったふりをして、むやみに夕霧に盃を勧めて酔わせようとする。夕霧は用心してそれを辞退するのに困り果てているのだった。

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