藤裏葉 その四

 夕暮にかけて皆帰る頃、桜の花が一斉に咲き乱れ、夕霞があたり一面におぼろに立ち込めた。その風景に内大臣は昔を思い出し、優雅に歌を口ずさみながら辺りを眺め、思いにふけっている。夕霧の中将も心に沁みる夕暮の風景にとてもしんみりして、



「雨になりそうだ」



 と、人々がざわめいているのも気にとめず、やはり自分ひとりの思いにひたっている。


 その様子を見た内大臣は、ふっと心にときめくものを感じたのか、夕霧の中将の袖を引き、



「どうして、そんなにいつまでも私をお責めになるのです。今日の法事は大宮のためと思ってくださればその血縁の深さに免じて私の罪はもう許してくださいよ。余命も少なくなっているこの年寄りをお見限りなさるとは、お恨みに思いますよ」



 と、言うのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る