梅枝 その十六

 こうして翌日、光源氏は西の御殿に午後八時頃に訪れた。秋好む中宮の御殿の寝殿の西の対の放出に飾りつけをして、裳着の場所にする。御髪上げ役の内侍なども直接式場に参上する。


 紫の上もこの機会に秋好む中宮に初めて逢った。女君たちの女房が数知れず詰めかけているようだった。夜中の十二時頃に明石の姫君は裳を着ける。大殿油の火はほのかだが、明石の姫君の様子はとても美しいと秋好む中宮は見る。光源氏は、



「まさかこの娘をお見捨てなさることはあるまいと頼りにして、娘の失礼な童女姿を進んでお目にかけたのです。これが後世の例になるのではないかと、親心の狭い了見から心のうちにありがたく考えております」



 などと言う。秋好む中宮は、



「どういうことになるのかとも存じませず、お引き受けしたことですのに、そう仰山にお考えいただきますと、かえって恐縮されまして」



 と控えめに言う様子がこの上もなく若々しく愛嬌がこぼれ落ちんばかりだった。

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