梅枝 その十二

 夕霧の中将は横笛を吹く。今の季節にかなった春の調子で、天にも響くばかりに澄んだ音を吹きたてる。弁の少将が拍子を取って催馬楽の「梅が枝」を謡い出した様子もとても風情がある。まだ幼少だったころ、韻塞ぎの席で、「高砂」を謡ったのもこの人なのだった。


 兵部卿の宮も光源氏も横から一緒に謡って、改まった催しではないものの、風流な一夜の遊びなのだった。


 兵部卿の宮が盃を光源氏にあげるとき、




 鶯の声にやいとどあくがれむ

 心しめつる花のあたりに




「<千代も経ぬべし>の古歌のように千年も過ごしてしまいそうです」



 と言うと、光源氏は、




 色も香もうつるばかりにこの春は

 花咲く宿をかれずもあらなむ




 と答えるのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る