梅枝 その七

 このついでに、女君たちに使いを出して、調合した薫物の数々を、



「今日の夕暮の雨じめりを幸いに、試してみましょう」



 と伝えた。


 女君たちは、いろいろと趣向を凝らして光源氏のもとに薫物を届ける。



「この薫物の優劣を判定してください。<君ならで誰にか見せむ>であなたのほかにお願いする方はありません」



 と光源氏は兵部卿の宮に言い、火取り香炉をいくつか取り寄せ、薫物を試した。


 兵部卿の宮は、<誰にか見せむ>の歌の下の句の、<色をも香をも知る人ぞ知る>をもじって、



「私は、<知る人>でもありませんが」



 と、謙遜したが、言いようもなく香しい匂いが、それぞれ漂ってくる中にも、調合によって、匂いの立ちすぎたり、もの足りなかったりするほんの僅かの欠点も嗅ぎ分けて、強い優劣をつけるのだった。

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