梅枝 その八

 あの自分で調合した二種の薫物を、光源氏は今ようやく取り出した。宮中では右近衛府の詰め所の御溝水のあたりに、薫物を埋めるのになぞらえて、六条の院の西の渡り廊下の下を通って流れ出てくる遣水の、汀近くに埋めさせたのを、惟光の宰相の子の兵衛の尉が掘り出して持ってきた。それを夕霧の中将が取り次いで、光源氏に渡す。兵部卿の宮は、



「これは難儀な判者の役を当てられましたね。おお煙たい」



 と困っている。


 薫物の調合法は、同じ処方がどちらにも伝わり広まっているはずなのに、それぞれが思い思いに調合した薫物を嗅ぎ合わせてみると、匂いの味わいの深さ浅さに、とても興味をそそられることが多い。


 優劣などとてもつけられない中で、朝顔の前斎院の「黒方」は、あんたに謙遜したけれど、やはり奥ゆかしくしっとりした匂いが格別だった。

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