真木柱 その五十七

 時折、こちらを困らせるような色めいた振舞いを見せたのを、うとましいと思ったことなどは、こちらの右近にも打ち明けていないので、心ひとつに収めてひそかに悩んでいた。右近も実は薄々二人の仲は察していたが、ほんとうのところはどの程度の関係だったのか、今もって腑に落ちないでいるのだった。返事は、



「さし上げるのもお恥ずかしいけれど、このままでは失礼だから」



 と書く。




 ながめする軒のしづくに袖ぬれて

 うたかた人を偲ばざらめや




「久しくお目にかかれず月日が過ぎますと、仰せのようにひとしお所在ない侘しさもつのるように思われます。あなかしこ」



 と、ことさらに礼儀正しく堅苦しく書いた。光源氏は、返事を開いて、軒の玉水のこぼれるように自然に涙があふれ落ちるのを、人に見咎められたら具合が悪いだろうと、さりげないふりをするのだが、胸がいっぱいになる気持ちだった。

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