真木柱 その二十六

 しかし髭黒の大将は、



「いったいどういう考えから、こんな女に手をつけたりしたのだろう」



 などと、思うだけなのだった。なんとも情けない話である。




 憂きことを思ひ騒げばさまざまに

 くゆる煙ぞいとど立ちそふ




「まったくとんでもない昨夜のあの醜態が、もしあちらの耳に入りでもしたら、あの人からも嫌われて、私はどっちつかずになってしまうだろう」



 と、ため息をついて出かけていった。


 ただ一夜逢わなかっただけなのに、長く逢わなかったように、また一段と新鮮な感じがして、美しさと魅力が増したように思われる玉鬘の様子に、髭黒の大将はますます夢中になり、この玉鬘だけしか愛せない気持ちになる。北の方のことを考えると気分が悪くなるので、長らくこの邸に居続けているのだった。

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