真木柱 その二十二
人々がほとんど見届ける暇もない一瞬の出来事だった。髭黒の大将はあまりのことに呆然と立ち尽くしている。その細かな灰が、目にも鼻にも入ってぼうっとして、何が何やら分別もつかない。灰をいくら払いのけても、あたり一面に立ち込めているので、灰まみれの着物もみんな脱ぎ捨てた。北の方が正気でこんなことをするなら、もう二度と振り向きたくもないほどのあきれ果てたひどい振舞いだが、これもあの物の怪が北の方を嫌わせようとさせた仕業なのだと、側の女房たちも気の毒に思うのだった。
女房たちが大騒ぎして、髭黒の大将が着替えるのを手伝うが、おびただしい灰が鬢のあたりにも舞い立っていて、あらゆるところが灰だらけになっている気持ちがするので、善美を尽くした六条の院へは、とてもこのままの姿では参上できそうにもなかった。
どんなに乱心のせいとはいえ、これはあまりにもひどすぎる。今までにない呆れた所行だと、つくづくいまいましくなり、愛想も尽き果て、嫌気がさして、さっきいとしいと思った気持ちも消え失せたのだった。
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