真木柱 その二十三

 それでも今、事を荒立ててはとんでもない厄介なことになるだろうと髭黒の大将は気持ちを静めて、夜中になっていたが、僧を呼んで加持祈祷をさせるやら、大騒ぎになった。


 祈祷されている北の方が大声でわめき罵る声など聞くと、これでは髭黒の大将が嫌いになるのも無理のないことだった。


 その夜一晩中、北の方は物の怪調伏のために、加持の僧に打擲されたり、引き廻されたり、泣きわめきながら夜を明かした。


 暁方、少しうとうととして静かになった隙を見計らって、髭黒の大将は玉鬘に手紙をさし上げる。



「昨日、突然瀕死の病人が出ました上に、あの雪模様で出かけ難く、ためらっておりますうちに、私の身体まで凍えきってしまいました。あなたのお気持ちはもとより、お側の方々も、どう取り沙汰なさったことかと案じられます」




 心さえ空に乱れし雪もよに

 ひとり冴えつる片敷の袖




「たまらない思いです」



 と、白い薄い紙に、重々しく書くが、取り立てて風情もない。筆跡は実に立派で美しく、漢学の造詣など深いのがわかった。

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