真木柱 その二十一

 ほどよくしっとりと柔らかくなった衣裳に、顔立ちもあの光源氏のたぐいまれな光り輝くような美しさはとうてい及ばないにしても、なかなか水際だって男らしい風采で、並々の人とは見えず凛として、気後れするほど立派なのだった。供人の詰め所で、お供の人々の声がして、



「雪が少し小止みになりました」


「夜も更けてきたようです」



 など、さすがに遠慮しながら、それとなく出かけるのを促すように言っては、それぞれ咳払いしあっている。中将のおもとや木工の君などが、



「おいたわしい夫婦仲ですこと」



 などと、嘆息を漏らして話し合いながら横になっているが、北の方本人は、じっと胸の思いに堪えて、見るからにいじらしく脇息に寄り掛かってうち伏せている。と、突然、北の方はすくっと起き上がって、大きな伏籠の下にあった香炉を取り上げるなり、髭黒の大将に近づき、いきなりさっと香炉の灰を浴びせかけるのだった。

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