真木柱 その十八

 日が暮れてくると、やはり髭黒の大将は気もそぞろになって、どうかして玉鬘のところを出かけたいと心が焦った。折悪しく、空を暗くして雪が降り出した。こんな空模様にわざわざ出かけていくのも人目がうるさく、北の方が可哀そうに思う。また、北の方の様子も憎らしげに嫉妬して恨んだりするなら、かえってこちらもそこにかこつけてむかっ腹を立てて当然出かけていけるのだが、今日は北の方がいかにもおっとりと、さりげなくしているので、とても心苦しくなる。髭黒の大将はどうしたものかと思い悩みながら、格子などもあげたまま、端近くに座ってぼんやり物思いに沈んでいた。北の方は、



「あいにくな雪ですわね。この雪では道がさぞ大変でしょうね。夜も更けたようですわよ」



 と、外出をそそのかすように言う。もうおしまいなのだ、引き留めたところで無駄だろうと思案している北の方の様子は、いかにも痛々しく見えるのだった。

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