真木柱 その十九

「こんな雪では、どうして出かけられるものですか」



 と、髭黒の大将は言う。その口の下から、



「どうか、ここしばらくは見逃してください。私の本心をわからないで、何かと人がうわさして言いふらし、お二方の大臣たちも、ああだ、こうだとお耳になさっては、どんなに心配なさるだろうかと、その手前も憚られて、あちらに通うのを途絶えのないようにしなければ具合が悪いのです。どうか気持ちを静めて、私の本心を最後まで見届けてください。あの人をこちらに移したら出かけることもないので、もうあなたも気が楽になるでしょう。こんなふうに、落ち着いて普通の状態でいらっしゃるときは、他の女に心を移す気持ちもなくなって、あなたがただいとしく思われて」



 などと慰めると、北の方は、



「お出かけはやめてここにいらっしゃても、あなたのお心がよそに向いていらしては、かえって辛うございます。よそにいらしても、私を思い出してくださるなら、それだけで涙で凍った私の袖の氷もとけるでしょう」



 などと穏やかに言うのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る