行幸 その三十

 この話があったのは、二月の上旬のことだった。二月十六日が彼岸の初めで吉日だった。この前後には、他に吉日がないと、陰陽師が占っていたし、大宮もいくらか加減がよくなっているので、光源氏は裳着の式の支度を急いで準備する。


 いつものように玉鬘の部屋を訪ね、内大臣に打ち明けたときの様子などを、とてもこまごまと話して、また裳着の日の心得をあれこれと教える。行き届いたそのやさしい心遣いは、実の親と言ってもこれほどではないだろうと感謝しながらも、やはり実の父君と会うことができるのは、とてもうれしく思うのだった。


 こういうことがあって後、光源氏は夕霧にも内々にこうした本当のわけを話して聞かせた。夕霧は、



「おかしなこともいろいろあった。しかし、事情が分かってみれば無理もない」



 と、いろいろ思い当たり、納得がゆくのだった。あの自分に冷たい人の面影よりも、こちらの玉鬘の美しさが格段に思い出され、まったく気づかなかった自分の迂闊さが間抜けに思う。けれども、こちらに心を移すなど、とんでもない間違ったことだと反省するところは、世にも珍しい誠実さというものだろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る