行幸 その三十一

 こうしていよいよ裳着の当日になり、三条の大宮のところから、内々に使いが来た。櫛の箱など、急なことだったが、あれこれととても美しく用意して、手紙には、



「お祝い申し上げたくても、縁起でもない尼姿ですから、今日は遠慮して引きこもっておりますが、それにしましても、私の長生きの例にだけはあやかっていただくということで、許していただけるかと存じまして。感動して何もかも承りましたあなたの身の上について、それなら私の孫にあたられると明言いたしますのも、光源氏の大臣の手前、いかがかと存じまして。とにかくあなたのお気持ちにお任せしましょう」




 ふたかたにいひもてゆけば玉櫛笥

 わが身はなれぬかけごなりけり




 ととても古風な字で、震える手でしたためてある。光源氏もちょうど西の対にいて、裳着の式のことであれこれ指示して、手筈を取り決めているときだった。

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