野分 その三十一

 夕霧が大宮の屋敷に参上すると、大宮は物静かに勤行をしていた。物腰も態度も、衣裳まで、すべてが今全盛の栄華を極めている六条院の女房とは、比べ物にもならない。器量のいい尼君たちが、黒染の衣を身にまとった簡素な姿のほうが、かえってこうした邸としては、それなりにしっとりとした風情があるのだった。


 ちょうどそこに内大臣も来た。部屋の灯などを灯し、静かに話をする。大宮は、



「姫君に長い間会わせてくださらないのが、あんまりひどくて」



 と言って、ただもう泣きに泣いた。内大臣は、



「近いうちに、連れてお伺いしましょう。自分からふさぎ込んでいては、近頃は惜しいことにすっかりやつれはてているようです。女の子など、はっきり言えば持つべきものではありませんな。何かにつけて、心配ばかりさせられるものでして」



 などと、今でもやはりあのことを根に持って、こだわっている感じでいる。大宮は情けなくなり、姫君との対面のこともぜひにとは言わない。話のついでに内大臣は、



「まったく不出来な娘を持ちまして、ほとほと手を焼いてしまいました」



 と、近江の君のことをこぼしながら笑う。大宮が、



「まあおかしなことですね。あなたの娘というからには、出来が悪いはずがあるものですか」



 と、皮肉を言うと、内大臣は、



「それが、実はほんとうに出来が悪いのがおりまして。ぜひそのうち何とかしてお目にかけましょう」



 と言ったとやら。

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