野分 その二十九

 夕霧は、



「そんな色合いのことも、私には見分け方がつかなかったのですね。どこの野辺のどんな花がよいことやら」



 と、こうした女房たちにも、夕霧は言葉少なに対応して、相手が打ち解けて近寄れるような態度も見せず、まったく気品高く生真面目にしているのだった。


 もう一通書いて、馬の助に与えると、馬の助が可愛らしい童や、使い慣れた随身などに、ひそひそ声で耳打ちをして手紙を渡している。若い女房たちは並々でなく気を揉んで、胸をときめかせては宛先を知りたがっている。


 明石の姫君が、こちらに戻るということで、女房たちがざわめきたって几帳を整えたりしている。樺桜に例えられた紫の上や、八重山吹を連想させた玉鬘の方々と、明石の姫君を見比べたくなり、夕霧はいつもなら覗き見などまったく関心はないのに、無理に妻戸の御簾をひきかぶって、几帳の隙間から覗いた。ちょうど明石の姫君が、几帳や屏風などの側から、通って行くところがちらっと見えた。女房が大勢右往左往していて、明石の姫君は何もはっきり見えないので、夕霧はじれったく思うのだった。

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