野分 その二十八
夕霧は、
「何か、大げさではないちょっとした紙はありませんか、それとお部屋の硯とを」
と頼むと、女房は明石の姫君の厨子の中から、紙一巻を取り出し、硯箱の蓋に入れてさし上げた。
「いや、これでは畏れ多くて」
と夕霧は言ったが、北の御殿の明石の君の格を考えると、そう遠慮するにも及ばないという気がして、それに手紙を書いた。紙は紫の薄様だった。墨を心を込めて磨り、筆の先を注意して見ながら、丁寧に書き、ときどき筆を止めて書き案じている姿は、ほんとうにすばらしく見える。けれどその歌は妙に紋切り型で、感心しない詠みぶりだった。
風さわぎらむ雲まがふ夕にも
忘るるまなく忘れぬ君
その手紙を風にもまれて吹き折れた苅萱につけたので、女房たちは、
「物語の交野の少将は、紙の色に合わせて花や草の色をそろえましたのに」
と言うのだった。
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