常夏 その二十五

 内大臣は里帰りの弘徽殿の女御を訪ねたついでに、そのまま近江の君の部屋の前に立ち寄り、覗いてみると、御簾を中から大きく外に張り出すように端近に座って、五節の君というしゃれた若女房と双六を打っていた。近江の君はしきりにもみ手をして、



「小賽、小賽」



 と、相手に小さい目が出るよう祈っている声が、非常に早口だった。内大臣は、ああ、情けないと思い、供の人々が先払いの声をあげるのを手を振って止めながら、なおそのまま妻戸の細目に開いた隙間から、ちょうど襖が開いている向こうの部屋を覗いた。五節の君も、また同じように勝ちたいとあせっていて、



「お返し、お返し」



 と、言いながら、筒をひねって、すぐには賽を出さない。心の中にはいろいろな物思いもあるのかもしれないが、見た目には二人ともまったく軽薄な態度だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る