常夏 その二十六

 近江の君の顔立ちはぴちぴちと活気があり、親しみやすくて、愛嬌もある。髪も見事で欠点も少なそうだが、額がいやに狭いのと、声の上っ調子なのとで、台無しになっているのだろう。取り立てて美人というのではないが、この人をどうしても赤の他人だと言い張るわけにもいかず、鏡の中の自分に確かに似ていることを認めているので、内大臣は何という宿縁かとうんざりした。



「こうしてこの家にいても、何となく不似合いで落ち着かないということはありませんか。私はむやみに忙しくて、訪ねてあげることもできないのでね」



 と、内大臣が言うと、近江の君は例のあの早口で、



「こうしてここにいますのに、何の不安がございましょう。長年お目にかかれなくて、どんな方かとお会いしたかった父上のお顔をここに来ても、終始拝見できないことだけが、双六によい目が出ないときのようなじれったい気がします」



 と言うのだった。

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